No.12 「出来るか出来ないかじゃなく、やるかやらないか」 自称『スリザリン』タイプの大学院生が実現したいこととは?
在学中の大学院を休学し、地元・福島県白河市で空家をリノベーションして、コミュニティ・カフェをの創設をしている青砥和希さん(24)。
自分のことを「器用な人。だけど、納得しないことや違和感を抱えたまま進むのが苦手」と分析する。高校時代に居場所がなかった経験が、教育に携わりたいと思うきっかけとなった。東京の大学へ進学した年に起きた東日本大震災。幸い、家族や知り合いは皆無事だった。それでも「私も福島で被災していればよかった…」とつぶやく。生まれ育った白河市で、「福島」を想い、周りを巻き込みながら自分のやりたいことを実現していく。
自治体と交渉。学生カフェオーナーに
青砥さんは現在、在籍中の東京の大学院を休学して福島県白河市に住む。休学の理由は、空き家をリノベーションしてカフェ「エマノン」を運営するため。白河市が地方創生の一環として設立するミュニティ・カフェで、2016年3月にオープンした新しい公共施設だ。カフェをはじめ、日々の自習や作業空間として誰でも使える。「学術、工芸、アートなど、様々なイベントを通じ、地域で新しい学びを実践」(HPより)。壁塗りやカフェの椅子づくりからリノベーションはスタート。どの工程も「イベント」や「ワークショップ」の形をとって、周りを巻き込みながら形作っていく。
「自分がマイナスになることは避けます。新しい経験や金銭的負担がかからない方に物事を持っていった方がモチベーションも上がるので」
震災後に感じた無力感が原動力に
2011年3月11日、青砥さんは大学首都大学東京の1年だった。幸い、地元の県南地域は、浜通り付近と比較すると震災の直接の被害は小さく、家族や親せき、知り合いは無事だった。「被災してれば良かった」とつぶやく、その本意は次のようなものだろう。
同じ地域に暮らしている人と同じ体験をして、その時の体験をわかちあいたかった。
福島出身でありながら、あのときの揺れと恐怖を皆と一緒に共有できなかったことがただ辛い―
翌日3月12日に、「そっちに行くよ」と実家に電話をかけるが、「危ないので来なくていい」と母親に言われる。「あの時、あの場にいたら何かできたかもしれない。役に立てずにいたことに無力感、悔しさがこみ上げてきました」
メディアでは「福島」と一括りにされるが、福島県の中にもたくさんの地域があり、それぞれの課題があることについて言及する。
例えば、少子高齢化による人口減少や第一次産業の後継ぎ問題などは、震災以前からの社会問題だ。それらを区別して問題解決していく必要があると指摘する。
「〝復興〟には5年、10年と長い年月がかかります。そして〝善意〟だけでは必ず息切れします。継続的に復興支援するためには、活動する人自身が利益を得ることも必要になってくるのではないでしょうか」
ハリー・ポッターの「スリザリン」タイプ
地元・白河そして福島の復興のために尽力をかける青年…である一方で、自分のことを客観的にこう表現する。
「ハリー・ポッターで例えるなら、〝スリザリン″ですね。〝グリフィンドール″ではないです」
イギリスのファンタジー小説のハリー・ポッターシリーズ(J.K.ローリング著)で登場する魔法学校ホグワーツは魔女や魔法使いの少年少女たちが在籍する全寮制の学校。4つの組があり、入学時に一人ひとり「組分け帽子」により所属が割り振られる。主人公のハリー・ポッターをはじめとするメインキャラクター達は「グリフィンドール」という、熱くて正義感溢れる組に選ばれる。その対極のある組がスリザリン。ハリーと相いれない狡猾で野心家のマルフォイが属した組だ。
「泥臭いことは嫌いです。よく考えて行動するずる賢いタイプです」とさらりと言い放つ。
モットーは「やるかやらないか」
そんな青砥さんだが、納得しないことや違和感を抱えたまま進むのが苦手という一面もある。わからないことは納得するまで自分で調べたり、相手と議論したりする。
高校1年の冬、制服の規則について首をかしげる出来事があった。カーディガンを学ランの中に着るのはOKだが、学ランなしでカーディガンを着るのはNG。そのルールに疑問をもち、教師に問うてみたが「それが規則だから」という一点張りの回答。
「納得できませんでした。理由があればちゃんと理解できたかもしれないのに…」
さらに、勉強面においても憤りを感じたことがあった。文系の青砥さんは、社会科の授業を選択する際、地理を履修しようとする。ところが、文系の選択肢は日本史か世界史のみ。地理は理系の選択科目だった。
なぜ自分が学びたい教科を選べないのか、
そのときの気持ちを教師にぶつけてみると、返ってきた答えは「そうなっているから」だった。
「学校の人件費の都合でなぜ自分が本当に学びたいことを選べないんだ」
モヤモヤしたものを残したまま、仕方なく世界史を選んだ。受験へのモチベーションは下がった。 その後、とある大学のオープンキャンパスで地理の模擬授業を受けたとき、その面白さを再確認する。そして突如ひらめく。
「授業を履修できないのであれば、独学で地理を学べばいいんだ」
そうして独自で学び、疑問は地理の先生に質問していた。その教員は独学を応援してくれ、勉強して浮かんだ疑問にも納得できるまできちんと応えてくれた。そうして受験へのモチベ―ションも徐々に上がっていき、希望した首都大学東京に合格。大学で地理学を学べることになった。青砥さんの好きな言葉、「出来るか出来ないかではなく、やるかやらないか」を体現した結果だ。
「私も記念に撮らせてください」と写真の撮り合いっこになった。青砥さんの第一人称は「私」。
教育を中からではなく、外から変えたい
青砥さんは教育に関心ある。高校時代に居場所を感じられなかったのも影響していると言う。白河市には大学がなく、大学への進学率は50%だそうだ。
「教育を中側ではなく外から変えていきたいと思っています。若い人、特に高校生にもっと社会に触れる機会を作って、人生にいろいろな選択肢があることを伝えていきたいです」
教師になろうとは思わない。理由は組織が大きすぎて意思決定に時間がかかってしまうから。その代わり、行政関係者、教育関係者、学術関係の人と連携して、より良い地域社会を作っていきたいと思う。
その一つが、母校の教育実習で一緒だった友人と共に立ち上げたShirakawa Week 。2012年から活動しはじめ、社会学者の開沼博さんを迎えて「福島エクスカーション」などを行っている。
「福島第一原発から40キロほどのいわき市から旧警戒区域の中まで、復興に関わるいくつかのスポットを巡ります。特にこの夏(注:2015年)は、福島エクスカーションガイド養成講座として、少しでも福島の現状を理解できる人が増えるよう、筆記試験も行いました。」
そして、今年の3月にオープンしたコミュニティ・カフェエマノンは、地元の高校生と一緒に、リノベーションに取り組んだ。地元のタイル工職人とタイルを貼ったり、大堀相馬焼の陶芸家とコーヒーカップをつくったり、周りを巻き込み創立した。
(青砥さん提供写真)
「コーヒーが好きです。白河市と清澄白河は松平定信公をつなぐ縁があるので、ブルーボトルで有名になった清澄白河といつかコラボイベントをしたいですね」(青砥さん:左端)
【プロフィール】
座右の銘:若新雄純『ゆるい就職』
「ゆるい所を肯定すること。口だけじゃなく、具体的なサービスを展開するところが好きです」
生年月日:1991年8月29日 おとめ座 O型
経歴:福島県立白河高等学校→首都大学都市環境学部都市環境学科地理環境コース→首都大学東京大学院都市環境科学研究科
趣味:写真、コーヒー
「愛用カメラはNikon FE。1番好きな珈琲店は八王子にあるカザーナコーヒーです」
特技:ポーカフェイス 「内心は喜怒哀楽をちゃんと感じていますよ」
家族:父、母、妹(22)、妹(19)
好きな食べ物:チョコレート
嫌いな食べ物:梅干
お気に入りスポット:新宿界隈、自分のカフェ
好きなタイプ:有言実行する人
嫌いなタイプ:やるって言ってやらない人
好きな言葉:出来るか出来ないかではなく、やるかやらないか
URL:コミュニティ・カフェEMANON(エマノン)
HP http://emanon.fukushima.jp/
筆者とのつながり:2015年8月の福島エクスカーション
(デスク:浜崎 空 執筆:小野 ヒデコ)
<小野ヒデコプロフィール>
おの・ひでこ 1984年生まれ。自動車メーカー、アパレル会社勤務を経て2015年にライターに転身。